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敷引き特約の最高裁判例 [裁判事務]

少し前になりますが,最高裁で敷引き特約に関する判決がありました。個人的には少し驚きをもって判決文を読みました。賃貸借契約において,敷金を預る方法ではなく,敷引き特約をする方が,賃貸人に有利になるように思いました。
この判決により敷金に関する賃貸実務が大きく変化し,数年経ったころ,昔は敷金返還請求の訴訟が多かったけど,最近は全然ない・・・ということになっているかも知れません。

最高裁は,一般論として,
「通常損耗費や経年劣化費は,通常賃料の中に含まれており,これら費用を負担させるために敷引き特約をすることは,消費者契約法第10条の任意規定の適用による場合に比して消費者たる賃借人の義務を加重するものである。」
「敷引き特約の敷引金の額が契約書に明示されている場合,賃借人は,賃料の額に加え,敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するので,賃借人の負担は明確に合意されている。通常損耗等の補修費用は,賃料にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても,これに充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には,その反面において,上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であるから,敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担することにならないし,それが信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。」
「ただし,賃借人は,通常,自らが賃借する物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額については十分な情報を有していない上,賃貸人との交渉によって敷引特約を排除することも困難であるから,敷引金が高額に過ぎる場合は,賃借人が一方的に不利益な負担を余儀なくされたものとみるべき場合が多い。」
と説示しました。

ところで,本件は,賃料が月額9万6000円で,敷引き額は,経過年数1年未満が控除額18万円,2年未満が21万円,3年未満が24万円,4年未満が27万円,5年未満が30万円,5年以上が34万円です。また,本件は更新料の授受はありますが,礼金の授受がない事案です。

そして,最高裁は,本件につき,
「本件特約は,契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって,本件敷引金の額が,契約の経過年数や本件建物の場所,専有面積等に照らし,本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また,本件契約における賃料は月額9万6000円であって,本件敷引金の額は,上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて,上告人は,本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。そうすると,本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず,本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。」
と評価しました。

ん~,やはり,関東の賃貸実務には大きな影響がありそうですね。

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2011-04-21 18:00  nice!(0) 
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建物明渡訴訟の検討② [裁判事務]

まず,建物明け渡しの事件をお引き受けするにあたり,いつも大家さんにご理解いただくようお願いしていることは「滞納賃料の回収は難しい・・・」ということです。

そもそも,賃料不払いが発生するのは,見るべき資産を持たない賃借人が,何らかの理由で生活に困窮し,その結果,賃料を溜めてしまう・・というパターンが多いと思いますので,いくら法的な手続きを取ってみたとしても,資産のない人から満足いく回収成果を得ることは難しいのです。

実際,未払賃料の支払いを命じる判決等により,賃借人の財産を差し押さえようと思ったとしましても,裁判所が差し押さえるべき財産を見つけてくれる訳ではありません。大家さんもそのような財産を見付けることは困難です。そして,そもそも家賃を溜めるような賃借人は,一般に見るべき資産を持っていないことが多いでしょうから,結局のところ,未払賃料の回収を目指しての強制執行すらできない・・・ということで終わってしまいます。

それでも何とかしてくれ!と言われましても,何ともできないのです・・・

それなら,早く賃料を支払ってくれる賃貸人に貸せるよう,出来る限り早く判決を得て,強制執行により建物の占有を回復するしかないことになるのですが,ここでも大家さんに検討いただかなけらばならない事項があります。それは「強制執行にはお金がかかる・・・」ということです。
強制執行にかかる費用は誰も出してくれません。強制執行の費用は大家さんに捻出いただくほかないのです。

では,建物明け渡しの強制執行には,どの位の費用がかかるのでしょう・・・

この話しは,次回につづきます・・・


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2011-04-20 18:00  nice!(0) 
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建物明渡訴訟の検討① [裁判事務]

司法書士の事務所には,比較的小さな居住用アパートの建物明け渡し(賃料不払い)の相談が持ち込まれます。

相談を受けてみますと,多くの方々は,裁判をすると求める利益が全部実現できるとお考えのようです。
確かに,入居者が何ヶ月も賃料を溜めてしまったとなると,大家さんも放置できないことから,どうしても建物の明け渡しを求めたいということになります。そして,このとき,大家さんは,当然,建物の明け渡し及び滞納賃料全額の回収の双方の実現を求めるということになります。

しかしながら,現実には,建物明け渡しと滞納賃料全額の回収の双方について,100%の満足を得ることは難しいのが実情です。
滞納賃料の回収をするどころか,裁判で建物の明け渡しを求める場合,大家さんには,さらに多額の費用の持ち出しが求められることもあり得るのです。

従いまして,大家さんが建物の明け渡しを法的に求める場合,理想と現実のギャップを確認しつつ,いくつかの課題の検討とそれなりの金銭的な負担をする覚悟が必要となります。

この件は長くなりますので,何回かに分けてお話ししたいと思います。


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2011-04-14 18:00  nice!(0) 
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借家にネズミが・・・誰のせい? [裁判事務]

先般,借家の借主さんが,借家にネズミが頻繁に出没し,それにより家財道具や衣類等が汚れて使い物にならなくなったという理由で,家主さんに対し,その損害を請求する民事訴訟を提起しました。

私は,家主さんの側の相談を受け,色々な関係から訴訟代理人となりました。

事案のポイントは,家主は,賃貸借契約上,借主に対し,借家にネズミが出没しないようにする義務を負担するのか・・・という問題です。

実は,似たような事案で東京地裁の判例(平成21年1月28日判決)があります。

この判決では「建物の賃貸借契約において賃貸人が賃借人に対して負う義務は,賃借人がその使用目的に従って建物を使用収益できる状態にして引き渡せば足りるものであり,その後,建物にネズミ等の生物が侵入して建物の使用に影響を与えるようになったとしても,ネズミ等の建物内への侵入自体は当該ネズミ等と建物を使用する賃借人の使用状況との相関関係により生じる事態であって,賃貸人の管理の及ばない事項である以上,この侵入を阻止するよう措置をとる義務が賃貸人に直ちに生じるものではない」としています。

個人的にも,建物に侵入したネズミ等の事後的駆除は,第一義的には建物を占有する賃借人が行うべき事柄であると考えるのが自然だと思っています。

ただ,最近では,このような事案であっても,民事訴訟になってしまうようです。
厳しい世の中になってきました。


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2011-04-13 18:00  nice!(0) 
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裁判期日が延期に [裁判事務]

時間の経過により,考えられない被害状況が報道されています。
本当に痛ましい限りです。
被害に遭われた方には,本当に心よりお見舞い申し上げます。

当地の被害は殆どありませんが,仕事が手につきません。
私が委員長を務めている司法書士会の委員会は当然中止にしました。
ただ,本日予定されていた東京の某簡裁の裁判は出頭しない訳にはいきませんので,止む無く出頭しました。

明日予定されている地元簡裁の裁判は延期になりました。
当然です。

東北電力が計画停電を検討しているとか。
何で東京電力が計画停電をして,あまった電力を東北電力に供給しないのでしょう?
なぜなのでしょう?

自分に出来ることは何だろうと考えています。
考えるだけではなく,行動に移さないといけません。


2011-03-14 21:09  nice!(0) 
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過払金回収の営業ブログ [裁判事務]

昨今,過払金の回収実績を謳うホームページやブログが多く,和解の現場に少なからず影響を与えているようです。

例えば,営業の意味も含めてだと思いますが,事件ごとのさまざまの事情を一切割愛し,ブログなどで単純な成功事例ばかりを公開しているブログがそれです。
このような営業ブログを見た依頼者は,営業の意図を差し引いて読んでくれませんので,どのような事案でも,公開された事例のとおりの結果になると思い込んでしまい,十分な説明をしたとしても,ある和解条件に納得されないといことがあります。

過払金回収のポイントは,その司法書士や弁護士の手数料を含めた実際の手取額がいくらであるのかが最も重要です。極論すれば,ある司法書士等が和解せずに判決等で満額回収したか否かは依頼者にとってあまり重要ではありません。

例えば100万円の過払金元本と10万円の利息があった場合,全額回収すると110万円の手取りです。これを9割で和解すると99万円の手取りで,その差は11万円です。
110万円を回収した場合のブログの記事は,当事務所は過払金と利息満額を回収する方針です!安易に和解することはありません!となります。
ところが,事務所の報酬を含めて考えた場合,次のようなこともあり得るのです。

この110万円の過払金回収の報酬が回収額の21%であったとすると,代理人の報酬額は23万1000円となります。一方,99万円の過払金回収の報酬が回収額の10.5%であったとすると,代理人の報酬は10万3950円となり,この差額は12万7050円です。

そうしますと,この例の場合,110万円回収した場合の手取りは86万9000円で,99万円回収した場合の手取りは88万6050円となります。代理人の報酬次第では,和解により減額した方が,実際の手取りが多くなることがあるのです。

加えて,満額回収の場合は判決⇒控訴の流れに巻き込まれる場合がありますが,後者の例ではその可能性はなくなり,依頼者の負担はさらに軽減される可能性があります。

このように,営業ブログで過払金+利息を満額で回収すると謳い,相応に減額して和解することを暗に否定しているような人がいたとしても,その報酬額によっては,実際の手取りが減額和解したときより少なくなる場合があります。過払金の回収は,営業ブログの謳い文句だけで判断することはできないのです。

和解は和解でそれなりの意義はあります。和解をすること=適当に仕事をしていると言うことにはなりません。徹底的に闘う姿勢を否定するものではありませんが,和解が悪であると決め付けることもできません。

大切なお金だからこそ,相手方から多く回収するというだけではなく,大切なお金だからこそ,手取りが多くなるようにしたいですね。


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2010-04-22 09:07  nice!(1) 
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フロックスに対する訴状 [裁判事務]

フロックス(旧クレディア)に対する過払金を請求する訴状ですが,1度経験すると特に悩まないのですが,はじめての場合,請求の趣旨をどう書こうか・・などと悩んでしまいます。

フロックスを訴えると,名古屋高裁の判決が証拠で出されますが,これを参考にすると,請求の趣旨は概ね次のようになるようです。

【前提】
 再生開始決定の前日の平成19年9月20日までの過払金が80万円,この日までの法定利息が5万円(再生債権=40%返還)
 その後の過払金が20万円,訴訟提起日前日の平成22年4月20日までの法定利息が2万円(共益債権,過払金債権)

【請求の趣旨】
1 被告は,原告に対し,本判決確定の日から起算して3か月以内に34万円を支払え。
2 被告は,原告に対し,上記34万円の内金32万円に対する上記期間の経過した日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告に対し,22万円及び内金20万円に対する平成22年4月21日から支払済みまで年5分の割合の金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに第3項につき仮執行の宣言を求める。

もちろん,このようにしなければならない訳ではありませんが,訴えの変更とかをするのも手間ですので,私は最初から再生計画に基づく権利変更後のお金を請求するようにしています。


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2010-04-20 18:00  nice!(0) 
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法律扶助案件の訴訟救助申立 [裁判事務]

ある破産事件について法律扶助を申し込んだところ,問題なく扶助決定が出たのですが,その扶助決定書に「訴訟費用(印紙代)について要訴訟救助申立」と書いてありました。

破産事件の印紙代は1500円ですから,この1500円のために訴訟救助を申し立てるのは大変だぁと思いましたが,決定書に書いてあったので,指示どおり申立をしてみました。

申立書はこのような感じです。
 ↓ ↓ ↓
平成22年(フ)第〇〇〇号 破産手続開始・免責許可申立事件
申立人 〇〇〇〇
         訴訟上の救助付与申立書
                          平成22年〇月〇〇日
〇〇地方裁判所 御中
                         申立人 〇 〇 〇 〇
 私が申し立てました御庁標記事件について,申立人に訴訟費用
を支弁する資力が無く,かつ,申立のとおり決定・許可がなされる
見込がないとはいえないため,申立人に対し,訴訟上の救助を付
与されるよう申し立てます。
                                    以 上
疎明方法
1疎甲第1号証 破産手続開始・免責許可申立書の写し
2疎甲第2号証 法律扶助決定書の写し
3疎甲第3号証 生活保護受給証明書
添付資料
1疎甲号証 各1通

ところが,やはり裁判所の立場では,1500円のために手続きをすることは・・・と思うようで,他の弁護士も司法書士も,このような申立をする人は誰もいないと説明を受け,結局のところ,申し立ては断念せざるを得ませんでした。

皆さんはどうしているのでしょう?


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2010-04-09 18:00  nice!(0) 
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ある過払債務者との和解交渉 [裁判事務]

最近,過払金の返還に素直に応じないことで有名な大手サラ金と,過払金返還請求について裁判上での和解の話し合いをする機会が激増しています。

このサラ金会社は切羽詰っているのか,意味無く全件応訴しているような雰囲気なのですが,代理人たる社員に問題があるのか,会社の問題があるのかわかりませんが,驚くべき発言をされることが多く閉口します。

ある和解の席上で,私が過払金の返還額を減額する理由がないので,仮に減額するとしても僅かになる旨を伝えたところ,減額できないのは私が成功報酬をたくさん欲しいからだと言い出したのです。あまりに論点がずれていて,また,無礼な話しでしたから,即座に和解交渉はできない旨を伝えましたが,この辺の考え方は,さすがサラ金の社員だなと感じました。

また,この社員,サラ金会社側の提案を私が拒否したところ,本人に確認しないでどうして断るのだと言い放ちます。私は代理人だから確認は要らないといっても納得しません。
あまりに低レベルだから,逆に私の提案の可否を代理人のあなたが判断するのではなく,いまここで社長に確認してごらん・・・と言ってあげたところ,ようやく代理人の意味がわかったようです。

このサラ金会社とは,いつもこのような感じになるのですが,多額の人件費を使いながら,かえって返還する過払金の額が増額しているのではないかと思えます。
態度のデカイ社員との和解は成立しませんので,やがて判決がでて,満額+利息を支払うことになるのです。

もっと冷静に話しができないものでしょうか。

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2009-09-10 18:00  nice!(0) 
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境界から建物までの距離 [裁判事務]

隣地との境界からどの程度の距離を置いて建物を建てるべきなのか,について,少し考える機会がありました。

まず,民法234条1項に「建物を築造するには,境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。」という規定がありますので,これに従わなければなりません(民法236条に「異なる慣習があるときは,その慣習に従う。」とありますが,ここでは考慮しません)。

ただ,色々な地域を見ていると,建物と建物がくっついているように立ち並んでいる場所を目にすることがありますので,この民法の規定との関係はどうなっているのか疑問になります。
この点については,建築基準法65条に「防火地域又は準防火地域内にある建築物で,外壁が耐火構造のものについては,その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。」という規定があるので,これが許されるということになります。

でも,民法と建築基準法の優劣については,よくわかりません。果たして,建築基準法が民法に優先する,すなわち民法の特別法なのかが問題になります。
この点については最高裁判所の判例で「建築基準法65条の建物については,民法234条1項の規定の適用が排除される。」とされていますので,建築基準法のこの規定は民法のこの規定に優先することになります。

そうすると,建物の建築については,結局のところ,
①原則として,境界線から50センチメートル以上の距離をおいて建物を建てる
②建築基準法65条の要件を満たす場合には,境界線に接して建物を建てることができる
の2つの基準があることになります。

別々の法律があると言うのは,ちょっとわかりにくいです。

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2009-08-28 18:00  nice!(0) 
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